残業・残業代問題でお困りの経営者・人事労務ご担当者様へ  〜ここに注意!労務管理の現場で見かける残業対策の落とし穴〜

《《 経営者のための残業対策講座 》》

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当サイトでは、サービス残業残業代の支払い労基署等による指導監督その他残業および残業代の問題でお困りの経営者様および人事労務ご担当者様にご覧頂くことを念頭に、企業の顧問社会保険労務士としての視点から、会社として最小限押さえておくべき残業・残業代に関する知識や具体的対応策について簡潔に記載し、解説を試みています。日常の残業・残業代管理にお役立ていただければ幸いです。


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○残業・残業代に関する基礎知識 ○残業・残業代の例外 ○違反した場合のペナルティ ○残業に潜むもう一つのリスク
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第5章 「残業の例外」「残業代が不要」となる場合とは?

所定の手続きを経て適正に残業が行われた場合には、原則として会社はその残業時間に見合った残業代を支払わねばならず、労働者はこれを請求することができます。

特に法外残業については労基法により罰則付きで支払いを義務づけており、仮に会社と労働者との間で残業代を不要とする約束をしても無効扱いとされてしまいます。

ところが、こうした場合においても、一定の条件を満たす場合には、残業を行っても残業扱いとならず、残業代の支払いが事実上免除される場合も存在します。

以下では、こうした残業代の支払いの例外とされるケースについて解説します。

なお、法内残業については原則として労基法と関係なく独自の取り決めで対応が可能なため、以下の解説では原則として法外残業を念頭において解説します。


1.残業を行った者が労基法上の労働者でない場合

労基法で義務づけている残業代は、あくまで労基法上、「労働者」として扱われる者が残業を行った場合に限られます。

したがって、取締役、保険外交員、一人親方、個人請負事業主といった労基法の適用を受けない者については、例え、相手先会社の業務を長時間行ったとしても残業代の問題は生じません。

ただし、兼務役員や、名目だけの個人事業主で実際には労働者と同様に業務に従事しているような場合には、労基法の適用を受けることもあるので注意が必要です。


2.労基法で定める例外制度の対象者となる場合

労基法では、前記のとおり労基法上の労働者に該当する者が残業を行った場合には、所定の残業代を支払いを義務づけていますが、他方で労働者の職種や地位等の労働実態や会社の業務の繁閑等によってはこの1週40時間、1日8時間という労働時間のしばりをなくしたり、緩和できる制度を定めています。

その結果、そうした条件に該当する労働者については、残業代の支払いについても緩和されたり、支払自体が不要であったりといった、通常の労働者と異なる取り扱いが認められています。

以下に各制度毎に解説します。


@管理監督者に該当する場合

労基法上、管理監督者に該当する労働者については1週40時間、1日8時間という法定労働時間のしばりが適用されません。

したがって、これを超える残業と考え方自体がそもそもなく、結果として残業代の問題も生じません。

▽ここに注意!!

労基法で定める管理監督者とは、部下の有無や肩書きのみならず、職制上の地位や権限が経営者と一体的な地位にあり、出退勤についても十分な裁量を有し、給与等の処遇についても一般労働者等に比較して優遇されている、といった実態を有している者を指します。

したがって、肩書きは管理職でも、逐一上長から指示を受け、処遇も他の社員と同等、といった名目だけの場合には対象とはなりません。

ときおり、部長、課長といった肩書きに気持ち程度の役職手当を付けて、一切残業代を支給していない、とするケースを見かけますが、この程度では労基法でいう管理監督職として認められるのは極めて難しいと考えた方がよいでしょう。


A事業場外労働に従事する場合

外回りの営業職のように社外で勤務する場合、実際の勤務時間を把握することは非常に困難です。

労基法ではこのように、労働の全部又は一部を社外で勤務し、かつ正確な労働時間の算定が困難な場合には、所定労働時間(一定の場合には労使協定で定めた時間)勤務したものとみなす、としています。

この「みなし制度」は、法律上、実際の労働時間の長短と関係なく所定労働時間勤務したことにしてしまう、という制度なので、所定労働時間を超える残業というものが理論上あり得ません。

具体的にいえば、所定労働時間が8時間の会社であれば、実際の労働時間が9時間、10時間であっても一律8時間としてしまう、ということになるのです (逆に6時間、7時間といった8時間を下回る場合も同じです。)。

営業マンに残業手当を付けない会社が多いのはこうした理由によるものです。

▽ここに注意!!

この制度が適用されるのは、あくまで労働時間の算定が困難な場合に限られます。

したがって、外勤者でも正確な算定が可能であったり、内勤に従事した場合などは原則に立ち返ることとなります。


B裁量労働に従事する場合

ソフトウェア開発やデザイナーなど特定の専門的職種や企画職等一定の業務については、会社が具体的な指示をするより、本人の裁量に委ねた方が適当な場合は少なくありません。

そこで、労基法ではこうしたケースに対応するため、裁量労働時間制という制度を認めています。

裁量労働時間制とは、対象となる職種や職務を法律上限定したうえで、労使協定の締結等一定の手続きを経た場合に限り、その職種や職務に従事する者については、実際の労働時間の長短に関わらずその労使協定で定める時間労働したものとみなしてしまう、という制度です。

したがって、労使協定で定める時間を所定労働時間としてしまえば前述の事業場外労働と同様、何時間勤務しようが法律上所定労働時間勤務したもの、とされてしまうため残業というものが理論上存在しなくなります。

ただし、この制度はサービス残業や過労の温床となりやすいことから、対象となる職種・職務の限定はもとより、実施に際しては就業規則への記載や、所定の事項を定めた労使協定の締結、監督署への提出が義務付けられ内容のチェックを受けることとなっています。

▽ここに注意!!

裁量労働制の対象として認められている職種はあくまで労基法上の要件を満たしているものに限られます。
したがって、会社が裁量労働を認めている業務だからからといってその全てが対象となるわけではありません。


C変形労働時間制

1日の労働時間が7時間で、1週目の労働日が5日、2週目の労働日が6日の会社があるとします。

この場合、労基法を原則どおり適用すれば、1週目の労働時間は35時間で40時間を下回っているため法外残業の問題は生じませんが、2週目は42時間となり、42時間−40時間=2時間の法外残業が発生し、その分の残業代が必要となります。

しかしながら、1週目と2週目の労働時間の合計を平均すれば(35+42)÷2=38.5時間となり40時間を下回っています。

このように、個々の週や日で見ると法定労働時間を超えていても、一定期間を平均すれば1週40時間のわく内に収まる、といった場合には、一定の手続きをふめば、週や日が法定労働時間を超えても法外残業扱いしない、という制度を労基法では例外として定めています。

これを変形労働時間制といいます。

前述の例でいえば変形労働時間制の適用を受ければ2時間の法外残業がなくなり、その結果残業代の支払も不要となります。

上記の例では変形期間は2週間となりますが、現在は最長1年までの変形期間が認められています。

月初はヒマだが月末は忙しいとか、冬場はヒマだが夏場は忙しい、といったように業務の繁閑のパターンが予想できたり、年間カレンダーにより労働日があらかじめ設定できるような会社で多く取り入れられています。

変形期間の長短に関わらず、平均して1週間あたり40時間におさまるということは、裏を返せば変形期間内の総労働時間には自ずと上限があるということを意味します。

たとえば、31日間を変形期間とすると、平均して40時間以内におさまる労働時間の上限は40時間×31÷7=177時間となります。

いいかえれば1ヶ月間の変形労働時間制によれば、1ヶ月の総労働時間を177時間以内にすれば法外残業の問題は生じないので、1日の所定労働時間を8時間としたい場合には月の労働日を22日(=177÷8)、7時間としたい場合には25日(=177÷7)、9時間としたい場合には19日(=177÷9)以内に、それぞれとどめておけば、法外残業の問題は生じません。

ちなみに変形期間を1年とする場合の総労働時間の上限は、40時間×365÷7=2085時間となります。

以上のように変形労働時間制とは、こうして逆算された変形期間内の総労働時間を、会社の「持ち時間」として適宜特定の週や日に割り振る制度ということができます。

なお、変形労働時間制についても、運用次第では労働者に負担を与えることがあるので、その導入に際しては就業規則への記載や労使協定の締結、対象となる日の特定など多くの条件や手続きが求められています。

▽ここに注意!!

変形労働時間制の導入に際しては、原則として就業規則へ記載されていることが条件となっています。

したがって他の条件を満たしていても、就業規則に記載されていなければ、法定労働時間を超えている残業については原則どおり法外残業として取り扱われます。


Dフレックスタイム制

1ヶ月以内の一定の期間を平均して1週40時間以内となるような総労働時間を定め、かつその範囲内で労働者自身が始業時刻と終業時刻を自由に決めて労働できる制度をフレックスタイム制といいます。

この総労働時間内に収まっている限り、週や日が法定労働時間を超えても法外残業扱いされない、という点では変形労働時間制と同様ですが、その労働時間の配分が労働者に委ねられている点で異なります。

また、フレックスタイム制についても導入に際しては、就業規則への記載や労使協定の締結など一定の条件や手続きが求められています。

▽ここに注意!!

変形労働時間制と同様です。


3.あらかじめ残業代を含めて支払っている場合

前記(1)および(2)では、労基法上、残業および残業代に関する規定が適用されないケースについて述べました。

このことは裏を返せば、(1)および(2)に該当しない限り、会社は残業を命じた場合には残業代を支払う必要がある、ということを意味しています。

仕事がら、「残業代を減らす方法はないか」といった、お問い合わせを受けますが、(1)および(2)の条件を見ていただいてお分かりのように、実際には、残業代を支払わなくても良い場合というのは極めて限られている、ということがおわかり頂けたのではないかと思います。

しかしながら、こうした条件を満たしていなくとも事実上残業代の負担を伴わないケースもあります。

それは、給与の一部にあらかじめ一定額の残業代が含まれている、といった場合です。

たとえば、30万円の給与のうちの5万円を、あらかじめ残業代として含めて支給すれば、少なくとも5万円分までの残業に対しては、すでに支払い済みとなっているので、実際に追加して支払うのは、これを超えた差額分のみとなります。

いいかえれば毎月一定の残業が見込まれるような会社では、あらかじめ、その分を織り込んで支給すれば別途残業代を支給するケースは少なくなります。

▽ここに注意!!

この方法は、あらかじめ支払済みとされた残業代を上回った分についてキチンと差額が支払われている、といったように、少なくとも数字上のつじつまがあっている限りは労基法違反とはならないので、労基署等による未払い残業代に対する指導監督が強化されて以降、多くの会社で行われてきました。

確かに、以前から一定の残業代を含めて給与を決定・支給し、そのことを従業員も十分承知しているような場合は、単にその内訳をはっきりさせたに過ぎないのでさほど問題となりませんし、むしろその方がお互いにすっきりして良いかもしれません。

しかしながら、一方で、会社の都合で給与の一部が一方的に残業代に振り替えられた結果、本来の残業代の大幅な減少はもとより、基本給や一部の手当が圧縮され賞与や退職金にまで影響を与え、深刻な労使トラブルに発展するケースも多数見受けられるようになりました。

実は、この問題は労基法云々の問題というより、経営者が一方的に雇用契約を労働者に不利に変更したことを原因とする民事上の問題であり、訴訟等に発展するおそれが十分に考えられるものです。

したがって実施に際しては十分に労働者に説明の上、承諾を得たり、不利益のないように慎重に進めることが求められます。

また実務的には、残業代として含める場合、単に「残業代を含む」といった記載だけでは不十分です。

残業代である部分は、客観的に判別できるように就業規則や、雇用契約書、賃金台帳等に具体的な金額や時間数を明らかにしておく必要があります。

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